学校からの帰り。
いつも通り隣を歩くは、どこか楽しげな顔をしている。
こんな時は・・・・・・。
「貞治っ。」
「何だ?」
「今日って、何の日?」
などと質問をしてくる確率、100%。
は、俺からこうした話を聞くのが好きらしく、よく楽しげに質問をしている。
なら、俺はちゃんと答えたい。だが、残念ながら、何を質問されるか、までは予測できない。
「節分だな。」
「だね!」
この程度のことなら、俺でなくとも答えられただろう。だが、の顔を見ると、どうやらこれだけでは終わらないようだ。
「じゃあ・・・・・・、そもそも節分って何?」
「節分と言うのは、季節を分ける、という文字通り、各季節の始まり、つまり立春、立夏、立秋、立冬、それらの前日のことを言う。」
「へぇ〜、そうだったんだー。2月だけじゃないんだ?」
「そういうことだ。だが、今では特に立春前日を指すことが多い。」
「どうして?」
「その日に、『豆まき』の行事があるからだ。」
「そっか!じゃあ、豆まきって、いつ頃からやってるの?」
・・・・・・なるほど。今日は、節分について、聞きたいらしい。
いいだろう。そういうことなら、任せておけ。
「元は平安時代からだと言われている。授業でも習う通り、平安時代は邪気などの存在を、とても意識していた。」
「そういえば、平安時代って、そういうイメージあるねー。」
「それで、季節の変わり目には鬼が出ると考えられ、それを追い払う行事があったそうだ。」
「そんなに昔からあったんだー。」
「ああ。だが、当時は宮中での行事であり、庶民にも広まったのは、江戸時代辺りからだと言われている。」
「ってことは、江戸時代ぐらいから、節分イコール2月、って感じなの?」
「そのようだ。」
「その時も、『鬼は外、福は内』って言ってたのかなー?」
「瑞渓周鳳という、室町時代中期の僧が書いた『臥雲日件録』という日記では、1447年に『鬼外福内』を唱えたと記されているそうだ。」
「そんな記録があるんだ!・・・・・・でもさ、鬼も悪い鬼ばっかりじゃない気がしない?」
「そうだな。それで、苗字に『鬼』のつく家や、鬼を大事にしている地域などでは、『鬼も内』といった掛け声をする。」
「そうなんだー。」
「あと、『鬼は外』が鬼を追い出すのではなく、外で見張ってほしい、守ってほしい、といった解釈もあるようだ。」
「おぉ・・・・・・。今日も勉強になったよ。ありがとう、貞治。」
そう言って、は満足そうな笑みを浮かべた。・・・・・・俺は、この笑顔が見たくて、いろんな情報を仕入れているようなものだからな。
もちろん、元々、何かを調べることは好きだ。だが、と付き合うようになってからは、やはりに喜んでほしいという気持ちの方が大きいと思う。
だからこそ。
「いや、礼を言われるほどじゃない。」
「さすが、貞治。本当、いろんなこと知ってるよね。」
「まあな。」
などと強がってしまう。・・・・・・本当は、様々な知識を身につけようと、必死になっている時もあるんだけどな。
でも、それをお前に知られては意味が無い。俺は、に聞かれた質問に淡々と答える。そして、を楽しませたいんだ。
「俺にわからないことは無い!って感じ?」
「そこまでは言わないが。からの質問なら、ほぼ答えられるだろうな。」
「えー、それ、どういう意味?」
馬鹿にされたと思ったのか、笑いながらは少し不平を言った。
本当は、俺がそうしたい、という願望なんだが、そんなことを説明するわけにはいかない。
「さあな。」
「うわー、それじゃあ、もう1つ質問ね。」
そうやって俺が誤魔化せば、がまた楽しそうに質問を始めた。
よし、今度も答えてやろう。
「私はどうして貞治のことが好きなんでしょうか?」
「・・・・・・え?」
「だから、私が貞治のことが好きな理由は何でしょうか?」
「・・・・・・。それは質問というより、問題なんじゃないのか?」
「そうだね。じゃあ、ヒントあげようか?」
は仕返しだとでも言うように、にやにやとしている。
・・・・・・そんな質問、俺がしたいぐらいだ。だが、そう返すのも癪だ。当然、ヒントが欲しいとも言えるわけがない。
でも、それで本当にわかるのか・・・・・・?
「・・・・・・。」
「まあ、ヒントって言うか、すごくシンプルだよ、ってだけの話なんだけどね。」
俺が悩んでいると、が嬉しそうにそう言った。
・・・・・・仕方ない。さすがに、これはわかりそうにないからな。素直に参考にしておこう。
だが、あまりにヒントは少ない。シンプル・・・・・・単純に考えればわかる、ということか?
それなら、こういう仮説が立てられる。は俺に質問をしている時が最も楽しそうに見える。つまり、俺の知識量、そういったものを魅力に感じてくれているのではないだろうか。
・・・・・・とは言え、これを自分で言うのは躊躇われる。俺にも羞恥心というものはある。それでも、未だ答えを待っているに、無言を通すのも悪い。
・・・・・・のためだ。そう思い、俺は意を決して口を開いた。
「今日の節分のように、様々な話ができるから、か?」
「あー、間違ってはいない。それも1つなんだけどね。」
「・・・・・・悪いが、もう思いつきそうにない。」
それに、思いついたところで、もう自分で言いたくはない。
に答えてやれないことは残念だが、今回は例外にしてくれ。
「シンプル、って言ったのに、貞治は考えすぎなんだよ。」
「これでも考えすぎだったのか・・・・・・?」
「そうそう。答えは、私が貞治のことを好きだから、だよ?」
「・・・・・・・・・・・・それは、シンプルだな。」
「でしょ!」
悪びれた様子もなく、はそう返した。・・・・・・本当に、悪いとは思ってないようだな。
「だが、さすがにそれは無いんじゃないのか?」
「そう?じゃあ、最後の質問。貞治は、どうして私のことが好きなの?」
それは・・・・・・。
「のことが好きだから、だ。」
「ね?」
「ああ、の言う通りだな。」
全く、お前には敵わないよ。
苦笑いを浮かべながら、家へと向かう。すると、どこからか、豆まきをしている子供たちの声が聞こえた。
初乾夢ー!昔、某芸人さんが「『鬼は外』でみんなが外に出したら、外は鬼であふれかえるんじゃないの?」などとお怒りになっていらっしゃったので(笑)、必ずしも悪い意味ではないのになー、と思い・・・、この話が出来ました(←)。
あと、2月って、バレンタイン夢は書きますけど、節分夢は書かないなーと思って。いろんな話題から、夢に持っていけるようになりたいものです(笑)。ちなみに、節分情報は基本Wiki先生頼りです★
さらに、裏話(?)としては、この節分ネタ、本当は柳夢にするつもりでした。でも、どうしようかな〜と考えて、結果、全く書いたことのない乾さんにしよう、と。
それから、柳さんはバレンタインネタを思いついたんですよね。と言うか、これも乾さんでも良かったのかもしれないですけど、個人的に乾さんにはあんなことをさせたくなくて・・・(笑)。
“あんなこと”はバレンタイン当日にご確認いただければ、と思います(笑)。
('13/02/03)